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潰瘍性大腸炎(UC)

潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis:UC)は大腸粘膜に炎症が起こり、びらん(ただれ)や潰瘍ができる病気です。

主な症状は下痢、粘血便、腹痛などですが、ほかに発熱、倦怠感、体重減少、貧血などの症状がみられることもあります。

病変部位は原則、大腸だけですが、腸管以外にも関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症などの合併症が生じる場合があります。
潰瘍性大腸炎では粘血便や腹痛などの症状がある状態を「活動期」、症状が安定している状態を「寛解期」と呼びますが、この活動期と寛解期を繰り返すことがこの病気の特徴です。

したがって、治療により病状が安定しても再び悪化(再燃)することもありますので、再燃予防のために長期に薬を服用する必要があります。また、経過が長い症例では大腸癌発症のリスクが高まりますので定期的な内視鏡検査が必要です。

潰瘍性大腸炎の検査

潰瘍性大腸炎の診断を単独で行える検査はありません。
問診、診察に加え、血液検査、便検査、内視鏡検査などを行って診断します。

採血検査

炎症の指標としてCRP、貧血の指標としてヘモグロビン(Hb)、栄養状態の指標として血清総タンパク、アルブミンなどを測定し重症度を評価をします。また、投与中の薬剤の副作用を調べるためにも必要となります。

便検査

主にほかの病気(感染性腸炎など)によって下痢が起こっていないかを確認するために便の培養検査をします。最近では便カルプロテクチンと呼ばれる便中のタンパク量を測定することで大腸の炎症の程度もわかるようになりました。

大腸内視鏡検査

肛門から内視鏡を入れて大腸の病変の有無、範囲などを調べる検査です。潰瘍性大腸炎の病変は原則、直腸から連続的に口側へ広がって行きますが、潰瘍性大腸炎の診断、病変範囲、潰瘍の程度を把握するために必ず大腸内視鏡検査を施行します。診断時だけでなく治療効果の判定や大腸癌の検診目的でも施行します。

潰瘍性大腸炎の治療

潰瘍性大腸炎は、原因が不明ですので完治できる内科治療法がまだないのが現状です。したがって、内科治療の目標は寛解期を長く維持してQOLの向上を目指すことになります。

潰瘍性大腸炎の治療には寛解導入療法寛解維持療法の2つがあります。

寛解導入療法は炎症を速やかに抑えて安定した状態にする治療です。寛解維持療法は安定している寛解期を長期に継続させるための治療です。
寛解導入治療のみで使用する薬剤にはステロイド、免役抑制薬があります。寛解維持治療のみで使用する薬剤には免役調節薬があります。寛解導入、維持のどちらにでも使用できる二刀流の薬剤には5-ASA製剤、生物学的製剤、JAK阻害剤があります。内科治療で効果が認められない重症の場合、穿孔(腸に穴があくこと)、中毒性巨大結腸症(腸管が風船のように拡張してしまって機能していない状態)、大腸癌を合併した場合は手術が行われます。また、頻回に入退院を繰り返して通常の日常生活が送れない場合や再燃を繰り返してステロイドから離脱できず、QOLが著明に低下している場合も手術の適応となります。

潰瘍性大腸炎の手術は再燃予防のために原則、正常部分も含め大腸を全部摘出します。手術方法は小腸で便を溜める袋(回腸嚢)をつくり、これを肛門管とつなぎ合わせて肛門機能を温存する手術が主流です。一時的にはストマ(人工肛門)となりますが、現在では永久ストマになることはほとんどありません。

潰瘍性大腸炎の内科的治療

5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤

5-ASA製剤は潰瘍性大腸炎の基本薬で寛解導入と寛解維持の両方に用いられます。従来から用いられているサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)とサラゾピリンの副作用の原因となる成分を取り除き、有効成分が炎症部位で効率よく作用するように工夫された改良薬のメサラジン(ペンタサやアサコール、リアルダ)があります。経口剤、坐剤、注腸剤があり、病変部位によって使い分けます。経口剤は再燃予防のために寛解期でも長期に服用する必要があります。

副腎皮質ステロイド

ステロイドは炎症を抑える力が強く、即効性があるため5-ASA製剤で症状の改善を認めない中等症以上の患者さんに対して用いられます。代表的な薬剤としてプレドニゾロン(プレドニン)があります。通常は経口で投与しますが、症状が重い患者さんでは入院して経静脈的に点滴投与します。この薬剤は強力な抗炎症効果があり中等症から重症の患者さんに用いられますが、長期間にわたり服用すると様々な副作用が発現しやすいので、症状の改善にともない減量中止にすることが重要です。寛解維持効果はありませんので再燃の予防のための維持療法には用いません。経口剤、注射剤、坐剤、注腸剤、注腸フォーム剤があり、症状や病変部位によって使い分けます。

生物学的製剤 (バイオ製剤)

生物学的製剤は生物が作るタンパク質を利用して作られた薬剤であり、炎症の原因となっている特定の物質に結合してその作用を抑制します。潰瘍性大腸炎で使用できる生物学的製剤には炎症を引き起こすタンパク質(サイトカイン)の働きを抑える抗TNF-α抗体製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニー)、抗IL-12/23抗体製剤(ステラ―ラ)と炎症を引き起こす白血球(リンパ球)の大腸組織内への進入を抑える抗α4β7インテグリン抗体製剤(エンタイビオ)の5剤があります。炎症の程度が強く、ステロイドなどの従来の治療を行っても効果が十分に得られない中等症以上の患者さんに寛解導入と寛解維持の両方で使用されます。

JAK阻害剤

JAK阻害剤はサイトカイン産生に関与している白血球内のヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素の働きを阻害し、サイトカインの産生を抑えることで効果を発揮します。潰瘍性大腸炎で使用できるJAK阻害剤には現在、トファシチニブ(ゼルヤンツ)とフィルゴチニブ(ジセレカ)があります。ステロイドや生物学的製剤などの治療を行っても効果が十分に得られない中等症以上の患者さんで用いられる経口剤です。寛解導入と再燃予防のための寛解維持の両方で使用できます。

免疫調節薬または抑制薬

血球成分除去療法

薬物療法ではありませんが、体外循環装置を用いて血液を一旦、体外に取り出し、炎症の原因となっている活性化した顆粒球などをカラムを通して選択的に除去する治療法でGMA(顆粒球吸着除去療法)と呼ばれます。薬物療法による治療効果が得られにくい場合や、副作用により薬を使用できない場合に行われます。活動期の症状を改善する目的で行いますが、潰瘍性大腸炎では2022年1月より2週間に1回の維持療法も可能になりました。当院でも外来で導入できる体制をとっています。

日常生活での注意点

潰瘍性大腸炎の患者さんでも適切な治療を行い寛解状態を維持することができれば通常の日常生活を送ることができます。仕事や学業自体への制限は特にありません。適度な運動と十分な睡眠をとり、ストレスをためない生活を送ることが大切です。